こんなもんです

中卒女が今さらなことに驚いたり学んだりする日々をだらだらと記録しています。唐突に気持ち悪い話や思い出話をします。

屋根より高い英会話

午前8時。この時間になっても眠れずにいるのは、緊急地震速報の警報音で目覚めてしまったからではない。優しいエラ先生に4つも嘘をついてしまったことに良心の呵責を感じて、眠れないのだ。

 

昨夜、私はオンライン英会話教室の無料体験レッスンを申し込んだ。理由はもちろん、英語を習得したいから。

今まで、義務教育を含むさまざまな英語学習法を試した。だけど、分からない時に質問できる「相手がいない」から解決できず途中でつまずいて、身に付けたところで披露する「相手がいない」からモチベーションが上がらず嫌になって投げ出すことが多かった。

そこで私は「相手がいる」英会話レッスンならイケるんじゃないかと思いつき、優しいと評判のナイジェリア人講師・エラ先生とのレッスン予約を16時に取り付けたのだ。

これなら分からない時にいつでも聞けるし、その場で披露することだってできる。どこからともなく湧いてくる自信が「明日からの日記はカタカナだらけになっちゃうかもな〜」と杞憂していた。

しかし翌日、私はレッスン開始時刻の1時間前からPCの前に座り、カメラやマイクのチェックを何度も繰り返していた。昨日の自信はどこへやら、「英語でまくし立てられたら泣いちゃうかもしれない」と不安で仕方なくなってしまったのだ。

昨夜、脳内で繰り広げられた会議では席を外していた「頭が悪いから」や「授業中に居眠りしていたから」等の明らかな原因が、「相手がいないから」という小さな原因の声を遮って、「お前がバカだからだー!」「人のせいにするなー!」と今さらになって大騒ぎしている。自信は「まさか、カタカナなんて使いませんよ…」と言って姿を消してしまった。

そうなると大変。「ナイスチューミーチュー」を念仏のように唱えてみたり、「はぁ〜、たりぃ〜」と強がってみせたりするけれど、緊張に抗うことはできない。汗たらたら、息を切らした状態でエラ先生とのレッスンは始まった。

まず、あれだけ練習した「ナイスチューミーチュー」は「アイアムナイスツーミーツー」という形で口から発せられ、返事が分からず「へい」と舎弟のような相づちを打っていた。

しかも、英語で話しかけられた時に「ワ、ワカリマセーン…」と嘆いても、英語で返ってくるからずっと分からない。開始3分で既に「なぜ日本人の先生を選ばなかったんだろう」と後悔しきりだった。

それでも評判通り優しいエラ先生はサムズアップのポーズで「大丈夫だよ」といった笑顔を向けてくれる。そして、ゆっくりと一つ一つの単語を読み上げ、チャットボックスを使いながら丁寧に話しかけてくれた。

このエラ先生の優しさに平常心を取り戻していった私は、少しずつ聞き取れるようになり、「好きな季節は?」の問いに「アイ ライク ウインター」と答えたり、その理由を問われて「アイ ライク コタツ!」と答えられるようになった。コタツが何か分からないエラ先生に「フトン ミタイナ ヤツ!」と説明したのが正しかったかどうかは分からないけれど。

こうして一問一答を繰り返していく流れを掴むことはできた。だけど、さっきのコタツの説明同様、うまく伝えられないもどかしさがつらくなってきた。

加えて、うまく伝えようと考えていると、エラ先生と私の間に長い沈黙が流れて、これがなかなか気まずい。そして、私が意味もなく「へへへ、すいません…」などと謝ると、エラ先生は気を使ってサムズアップを見せてくれる。これも心苦しい。

そんなわけで、私は「早く答える」ことを心がけた結果、口から出まかせ、嘘に嘘を重ねてしまったのだ。

旅行の話の時、「北海道で食べたものは何?」といったことを聞かれて「スシ!」と答えたのはまだ良かった。「北海道へ訪れたら食べるべき寿司を食べずに帰ってきた」と説明できるはずがなく出た嘘だが、エラ先生は「オー! スシ!」と喜んでくれた。

次に「好きな映画」を問われた時、私は「ネバーエンディングストーリー」と答えた。これも嘘で、本当は「下妻物語」だけど、ナイジェリア在住のエラ先生に茨城県下妻市の物語を説明できる自信など私にあるはずなく、知っている英単語が並んだ映画として咄嗟に出た「ネバーエンディングストーリー」を答えたのだ。補足で一応「メイド イン ハリウッド」といったことも伝えたが、エラ先生は親指を立てなかった。

そして最後、「好きな音楽は?」という問いに私は「ジャズ…ブルーノート」と答えた。これはただのカッコつけの嘘だ。この問いの前に「午後はいつもケーキを食べながらホットミルクを飲んでいる」という嘘をついたばかりに、いい格好をしたくなってしまったのだ。

25分のレッスンの間、私が正直に答えたのは名前とコタツ、あと「好きな食べ物は?」と聞かれた時に元気よく答えた「ケンタッキーフライドチキン!」だけである。はあ、ケンタッキーが好きでよかった。

 

確かに私は「相手がいるから」つたないものの英語を話せた。だけど、「相手がいるから」いい格好をしようと嘘をついてしまった。ああ、エラ先生、ごめんなさい。私、本当は北海道で寿司を食べずに帰ってきた「下妻物語」好きの女なんです。最近は浜崎あゆみの「M」ばかり聞いている、夜は発泡酒の女なんです。

残り1回分の無料体験レッスンが残っている。次は、エラ先生に英語の謝罪文を一緒に考えてもらおう。

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