私がまだ幼い頃、おじいちゃんとおばあちゃんは「ひでこ」と「きょうこ」という2匹の猫と暮らしていた。冬場は石油ストーブの熱で背中の毛が焦げている猫だった。
猫のかわいがり方を知らなかった私は、ひっぱたくようになでたり、しっぽを掴んで振り回したりして、よく怒られていた。思い出すひでこときょうこの顔は、しかめっ面ばかりだ。
ひでこときょうこという名前は、おじいちゃんが付けた。「姪っ子姉妹がかわいいから」という理由で、姪っ子姉妹と全く同じ名前だ。おばあちゃんは「身内の名前を猫に付けるかね」と呆れたらしい。
おじいちゃんのイカしたネーミングセンスのおかげで、私はひでこさんときょうこさんに会うたびに、ひでこときょうこの焦げた背中としかめっ面がちらついて困った。
それは、お正月のときも、結婚式のときも、おじいちゃんの葬式のときも。ギャルになったひでこさんに、ウエディングドレスが似合うきょうこさんに、悲しむ2人に、「乱暴にして悪かったな」と同情した。
今日も寒い。暖房だけでは部屋が暖まらず、こたつにもぐって寒さをしのぐ。石油ストーブがあれば、すぐに暖まるのになあ。こたつ布団にタバコを落として焦がしたような跡を見つけた。しかめっ面がちらついた。