こんなもんです

中卒女が今さらなことに驚いたり学んだりする日々をだらだらと記録しています。唐突に気持ち悪い話や思い出話をします。

旧正月

1週間の有給休暇、初日はおばあちゃんの家へ。おばあちゃんからの「今日よね?」という朝早くの電話で目覚めて、昼前にカラオケができるおもちゃを持って家を出た。

コロナ前、おばあちゃんは仕事終わりに「放っておいてくれるから楽でいい」というスナックに寄り道をして、お酒を飲みながらカラオケを歌うのを年に数回の楽しみにしていた。私もたまにおばあちゃん孝行のつもりで一緒に行って、ママに「いい孫ねえ」と褒められたり、ボトルを余分に一本入れたりしていた。

去年の緊急事態宣言以降、おばあちゃんは「迷惑をかけるといけないから」とスナックに行くのをやめ、その間にスナックはコロナとは関係なく、ママが歳だからという理由で店を閉めた。おばあちゃんは、家に1人でいて、喋る相手がいるわけじゃないから、多分もう歌っても声が出ないかもしれないね、と度々の長電話で言っていた。

2月にカラオケボックスに行こうねと話していたけれど、再びの緊急事態宣言で中止になった。「残念だけどやめておこうか」というおばあちゃんからの電話に、「じゃあ何か家でカラオケができるものを持っていくよ。せっかくだからおじさんも呼んだら?」と勢いで言ってしまったから、電話を切ったあとすぐにカラオケができるおもちゃをAmazonでポチった。

おばあちゃん家に着くと、空のストロングゼロのロング缶と一緒におじさんが床に転がっていた。「あけましておめでとう」とあいさつすると、「ああ、どうも。じゃあもう俺はダメだから」と言って2缶目を飲み干し、おばあちゃんに蹴っ飛ばされていた。とりあえず紙袋はおばあちゃんに渡して、寿司屋に出前の電話をかけた。

電話中、紙袋の中を見て小さく手を広げるおばあちゃんの姿と、「2000円持ってるぞ」というおじさんの茶々があったから、一番いい桶を頼んだ。ストロングゼロの3缶目と自分が飲むワインを和室から持ってくるついでに、おじいちゃんの仏壇に線香をあげた。お供え用のグラスには赤ワインが入っていた。

スネちゃうかなと思い、届いた寿司を何貫か皿に分けとり、父の元に持って行くことにした。彼女さんに出迎えられ、指差す部屋をノックして開けると、布団の上で弁当の袋を広げている作業着姿の父がいた。

「あけましておめでとう。これお寿司、良かったら食べて」と皿を差し出すと、見向きもせずに「いい、弁当あるから」と言われた。「寿司をおかずに食べたらいいじゃん」と言って弁当の横に寿司を無理矢理置くと、父は「そんな贅沢な奴いねえよ」と言って弁当のふたを開けた。

「いるよ、お殿様とか食べるよ、多分」と言い返して部屋を出た。娘は父がスネているようで、スネていないと見た。

おばあちゃん家に戻ると、おじさんが「俺はフーテンの寅さんだから」と言って寿司に醤油をたっぷり付けていた。おばあちゃんの「どうして兄弟でこんなに性格が真逆かね」というつぶやきに深く頷いた。

おばあちゃんはウイスキーのロックを、私はワインを、おじさんは変わらず「痛風だから」という理由でストロングゼロを飲み進め、声を裏返して喋るおばあちゃんの話と、「時々おじいちゃんが降りてくる」というおじさんの「一緒にお酒が飲めてうれしいね」の言葉に笑顔になった。

そして、日が暮れる前には3人ともベロベロに酔っ払った。私がカラオケのおもちゃで歌う「居酒屋」で、おばあちゃんとおじさんがチークダンスをしている姿が記憶の最後の映像として残っている。

次の日、二日酔いで早く目が覚めて、とりあえず同居人に「昨日はすみませんでした」と謝ってみた。「何でよ、楽しかったんでしょ」と、昨晩に何度も同じ話をしてトイレにこもっていたことを聞かされた。もう一度だけ謝って、「じゃあもう私はダメだから」ということで寝直した。

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