昼過ぎに天下一品でこってりを食べて、スーパーに寄った帰り道、花屋を通り過ぎ、骨董品店の角を曲がったら、ふと「将来、何屋さんになろうかなあ」と思った。
開業を本気で考えているわけではない。いいアイデアがあれば、私に向いている業種が思い付けば、たまたま助けたおばあさんに「あんたにこの店をやるよ」と言われれば、やるかもしれない。
ふと思ったままを声に出したら、運転席の同居人が「何それ」と笑ったあと、「コロッケ屋さん」と答えた。そういえばさっき、コロッケ屋さんの前を通った。
コロッケ屋さん──。「かえちゃんの手作りコロッケ!」の看板が傾いて、ヒュ〜……と風が吹く光景が目に浮かんだ。カウンターの中にいるバンダナを巻いた私は、毎晩売れ残ったコロッケを食べている。
「コロッケ屋さんは却下、次!」「ガビョ〜ン」。同居人は信号待ちの間に考えるふりをして、「じゃあお花屋さん」「あ、あとさっきの暗い店」と連投した。全く、もう少し本気で考えてほしい。
「花屋はお客さんに花の種類とか育て方を聞かれても『多分そんな感じです』って答えることしか出来ないし、骨董品はもっとわかんない。常連の物知りじいさんの話が長くて多分やんなっちゃうよ」
できない理由を並べると、同居人が食い気味に「そんなの勉強したらいいじゃん」と言った。全くもってその通りだ。しかし、私は本気で考えているわけではない。もう少し気楽に考えてほしい。
家に着く前には、将来「餃子屋さん」になることが決まった。理由はスーパーでチルドの餃子を買ったから。しっくりはこないけれど、考えるのが面倒になったから何でもいい。
夜、チルドの餃子を食べた同居人の「これ薄皮でおいしいなあ」「手作り感がある」という感想を聞いて、「かえちゃんの手作り薄皮餃子!」が頭に浮かんだ。ヒュ〜……と風が吹いていた。