同居人が出かけた夜、シャウエンに見守られながらゆっくりと湯船につかりたくて、お風呂を沸かした。
入浴剤は薄黄緑色のよくわかる匂い。「カポーン」という音は聞こえないけれど、ずぶ濡れの私に怪訝な目を向けるシャウエンと、付けっぱなしのテレビの雑音が心地いい。
10分くらい遅れている給湯器の時計が、湯船につかった時間を示すころ。シャウエンが突然、「ファッ、ファッ」と鳴いてどこかへ走り出した。嫌な予感がする。
しばらくすると、「ザッ、ザッ」と砂をかく音と、うんこをするとものすごく元気になるシャウエンが浴室の向こうで「クルゥゥァァアア!」と鳴き走り荒らし転げ回っている様子が浴室に届いた。
嫌な予感が的中してしまった。まずい、お尻にうんこが付いていたら大惨事だ。全裸で「あっ、あっ」と立ち往生していると、遅れてくるようにうんこの匂いが浴室に届いた。
臭い、臭すぎる。匂いはたちまちミストとなり、浴室を満たした。シャウエンに見守られながらの湯船どころではない。今すぐ風呂を出てシャウエンのお尻を確認しなければ。うんこを片付けなければ──。
10分くらい遅れている給湯器の時計が、嫌な予感がした時間を示すころ。私は口呼吸をしながら湯船につかっていた。うんこのミストを浴びながら、鳴き走り荒らし転げ疲れたシャウエンを見守っていた。
もうどうにでもなれ、と思っていた。私は多分、世界が終わるときもこうして全てを諦めるのだろう、と考えていた。シャウエンがお尻をつけて座っている珪藻土マットにうんこがついていないか、心配だった。
その後、私はシャウエンのお尻と部屋を確認して、うんこを片付けた。とても立派な一本糞だった。ねえ、シャウエン。もしまた私があなたに見守られながら湯船につかりたいときは……ううん、何でもない。お尻、拭くね。