ワクチン接種1回目の副作用で、私は微熱に浮かされた。
体に異変が起きたのは、接種翌日の夕方ごろ。いつも通りに仕事を終えて、夜ごはんの献立を考えているときだった。
脳みそをフル回転させても、献立が一つも思いつかない。冷蔵庫の中身を確認したくても、まるで長い時間浮き輪に乗って海を漂っていたようなめまいと、成長痛のような膝の痛みで体が動かない。
もしやと思い体温計を脇に挟むと37.1度。うわさ通りの副作用は、1日遅れでやってきた。
実のところ、私は熱を少々心待ちにしていた。「バカは風邪をひかない」を地で行く体だから、久々の熱を楽しみにしていた。
筋肉痛のような痛みで腕が上がらない程度の副作用にはがっかりしていた。何度と熱を測っても36.3度を表示する体温計を見て、今年引いたおみくじに「待人 来ず」と書いてあったことを思い出したりもした。
だから、37.1度を叩き出した体温計を見て、思わず感激してしまった。同居人とシャウエンに37.1度を見せびらかしたあと、献立作りを放り出し、ニヤニヤをこらえながら横にならせてもらった。
私は微熱が好きだ。咳や頭痛、吐き気が伴う微熱は嫌いだけど、微熱単体ならそこまでつらくないから好きだ。多少だらけていても許されるし、いつもより優しくしてもらえるから好きだ。
ブルッと寒気がするたびに胸がときめく。「冷えピタ貼ってあげようか?」の気遣いに、熱が下がっちゃう……と思いつつも「ありがとう」と答える。憂鬱なプールの授業がある日の朝に微熱が出て喜んだ小学時代を彷彿とさせた。
夜中に37.5度の最高記録を叩き出した以降、熱はぐんぐんと下がり、翌朝にはすっかり元気になった。まるで、熱に浮かされる夢を見ていたようだった。