すしざんまいでお寿司を食べるためだけに、同居人とわざわざ遠出をした。
テレビで何度も、「すしざんまい!」のポーズを見ていたら、「行かねば」と思うようになったからだ。
私たちの活動範囲内には、すしざんまいがない。家から一番近い店舗は、電車で1時間かかる場所にある。とても気軽には行けない。
それなのに、すしざんまいの社長やマネする芸能人たちは、私たちに「お寿司といえば、すしざんまい!」としつこく訴えかける。純粋な視聴者である私たちの心はすしざんまい三昧、憧れと焦燥が募り、揺れた。
「恥ずかしい、電車で1時間もかけてすしざんまいに行くなんて」
「そんなのまるで、単純でアホみたい」
「そうだよ、スシローでいいじゃん」
「……だけどほら、見て。みんなが両手を広げて待ってるよ」
『お寿司といえば、すしざんまい!』
──行かねば。
去る10月6日、私たちは最寄りの駅へと向かった。電車で1時間かけて、すしざんまいに行くためであった。
すしざんまいへの憧れと焦燥は、すしざんまいのお寿司とともに胃袋へと落ちていった。そして私たちは憑き物がとれたように、「おいしかったね!」「うんうん!」とおしゃべりをしながら帰路についた。電車で1時間かけて──。
きっとこれからは、「すしざんまい!」のポーズを見ても余裕をかませられるだろう。すしざんまいの話題になったら、「あ〜、ざんまい?」とか言っちゃうだろう。私たちはなんて単純でアホな二人なのだろう。