つい先日、フリマアプリで買った自転車の防犯登録が済んだから、買い物ついでに近所を走ってみた。
運転の仕方を忘れているせいで、風を切って走るというより、風にあおられて蛇行する。それでも気分は乗っていて、前輪は不思議と母方の祖母の家のほうへと回った。
家の直前まではマスクのなかで和田アキ子の「さあ冒険だ」を歌っていたが、普段は祖母が作った野菜を売っているであろう無人販売所が目に入るとぴたっと止まる。本当に会えたときの十数年ぶりの一言は何が正しいのだろう。
自転車から降りて、じっくりと無人販売所に近づくが、正誤のない一言を発することはなく。再び自転車に乗って走り出したら、かごから卵のパックが落ちて、タイヤで踏んづけた。
4個分の黄身と白身を無人販売所前の砂利道に残し、無心でペダルを踏み込む。電柱の貼り紙はまだ迷子猫を探しているし、特売の卵を56円分無駄にしたけれど、このときようやく風を切って走ることができた。
命からがら生き延びた卵たちを熱したフライパンに移し、溜まりに溜まったやるべきことを懇切丁寧にやると、今日も無事に日が落ちた。自転車に乗るときは、卵を買わないようにしよう。