シャウエンに「ナァ、ヨウ、オイ」と詰め寄られて目を覚ました。朝方まで夜更かしをして、昼過ぎまでぐーすか眠る人間を、大概の猫は許さない。
昨夜のままのカーテンの隙間からは、晴れている気配を感じられる。暖房で十分にあたたまった室内はからからに乾いていて、シャウエンの鼻先だけが湿度を保っていた。
むくんだ顔をこすりながら布団を蹴飛ばし、言われた通りに昼ごはんを用意すると、玄関からがちゃがちゃと鍵を開ける音がする。急いで目やにを投げ飛ばし、いかにも9時前には起きたような佇まいに切り替えた。
午前中に仕事を終わらせた同居人が帰宅した。がっつくシャウエンの背中を撫でながら大きなあくびをかましていると、同居人から「今起きた?」とからかわれてしまった。
「休みだからさ」と、寝癖のついた髪を触りながらヘラヘラしていると、何も聞いていなかった同居人からすぐに着替えるよう指示された。何かあったっけ、と考えながら、のろのろと服をかぶり、ふらふらと外に出る。
寝ぼけ眼を包むまぶたに、冬日和の日差しが降りそそぐ。車に乗り込むと、同居人が「帰りながら昼メシはあそこの回転寿司屋がいいなぁって考えてたんだよね」とか話しながら、カーエアコンのダイヤルを回した。
ああ、寿司か。おお、寿司か。今から回転寿司屋に行くのか。幸運だなぁ。目覚めてから今までの全ての意思決定を猫と人に委ねたら、目の前に寿司が運ばれる運びとなった。
今日は一年で最も昼が短い一日らしい。その半分以上を睡眠に費やしてしまったのは、太陽の力が弱まっているせいだろう。「そういえば今日、帰りに富士山がよく見えたよ」と話す同居人の声が、まぶたの裏に富士山を描く。
助手席で予想していた通り、目の前に寿司が運ばれた。冷たい赤身や白身、熱いあら汁が、歯磨き粉のカスしか入っていない胃袋に流れ込んでいく。ああ、おいしい。寝すぎてのぼせていた頭が、さらにのぼせた。
腹が満たされると、一度は平熱を取り戻した手のひらが、そこいらの赤ちゃんには負けないくらいにぽかぽかとあたたまっていく。寿司を抱えた腹を守るように、背中が丸まっていく。目玉がひっくり返り、焦点が散らばっていく。
気持ちいい。満腹のときの体は、眠っているときの体より熟睡しているかもしれない。このまま目を閉じたら、寝息をたててしまいそう。車の形をしたゆりかごが、満腹の体を家まで運んでいく夢を見る。
シャウエンに「ナァ、ヨウ、オイ」と詰め寄られて目を覚ました。カーテンの隙間からは、太陽が沈んだ気配を感じられる。膨れた腹をさすりながら布団を蹴飛ばし、言われた通りに夜ごはんを用意すると、浴室から柚子のさわやかな香りがした。