高卒認定試験の勉強を始めて、ようやくわかった。周りの大人たちが突然、何かに取り憑かれたように呟くあの「13文字」の謎が、ようやく解けた。
13文字。日常会話やテレビ、インターネットでおよそ年に一度は耳にするふしぎな暗号。13文字。大人たちが通じ合い、互いを認め合う魔法の言葉。
なかには聞いただけで、悪夢を思い出したように頭を抱える大人もいる。「それって一体……」。尋ねてみれば、皆が一斉に「いやあ、それは……」と口をつぐむ 。
13文字。それが一体何を示しているのか、彼らにはどのような過去があるのか。中卒の私には理解できなかった。聞くことをはばかられた。
まさか、三角関数のことだったなんて。
サインコサインタンジェント。ようやくわかった。過去のトラウマからだった。きっと、大人たちはみな、高校時代に植え付けられたのだ。
サインコサインタンジェント。謎が解けた。今まさにトラウマを植え付けられている身として、同情せざるを得ない。何か、時々言いたくなる。
サインコサインタンジェント。
私もいつか、あの日の私の前で突然何かに取り憑かれたように呟こう。大人たちと通じ合い、互いを認め合おう。そして悪夢を思い出したように頭を抱え、聞かれたら口をつむごう。
だって、意味がわからないんだから。