こんなもんです

中卒女が今さらなことに驚いたり学んだりする日々をだらだらと記録しています。唐突に気持ち悪い話や思い出話をします。

忘れたふり

その子と寝たのは中1の秋だった。その子とは、中学校に入ってから仲良くなった。

小学校も一緒だったけど、別に仲が良くも悪くもなかった。中学校に入って、私とその子だけがクラスからあぶれてしまったから、時々話すようになって、一緒に帰るようになって、毎日遊ぶようになった。

私とその子は照れ屋だった。手を繋いでトイレに行くような仲良しこよしは恥ずかしいし、下の名前で呼び合うのは照れくさい。トイレはそれぞれが行きたいときに行って、お互いを名字で呼び合う。グループには属さず、学校の保健室に通う。そういう友達になった。


そのころの私とその子は、全てに興味津々だった。一個上の先輩や隣町、丸みを帯びていく自分の体の輪郭や、純粋を壊しちゃいたい衝動。見えるものと見えないもの、全てを経験したかった。

それはきっと私とその子だけじゃない、12歳と13歳のクラスメイト全員がそうだった。みんなが誰よりも早くその全てを知りたくて、だけど、ちぐはぐな心と体が好奇心に追いつかない。期待した夏休みは何も経験できないまま終わり、そして体は春より成長した。


2学期が始まってからの私とその子は、放課後、その子の家のお兄ちゃんの部屋に入り浸るようになった。なぜなら、お兄ちゃんは家にあまりいない。親もいない。お兄ちゃんの部屋にある、たくさんのDVDや本をふたり占めできる。

そのDVDや本は、18歳以下の私たちは見てはいけない。とても刺激的で、生々しくて、ちょっぴり怖い私たちの未経験が、画面や紙いっぱいに繰り広げられている。

「えーウケる」「こんなことするの、やばー」って笑いながら、でも時々、交互にトイレに行って「ふぅ……」と息を整えなくちゃ、見続けられない。もっと知りたい。多分、経験したい。興奮を覚える体と心が、照れくさい。


その秋の放課後は、とても眠かった。私たちはすでにたくさんのDVDや本を見尽くしていて、知識だけは一丁前だけど、だけどまだ何も経験していない。だから、日暮れの早まりを感じながら、その子のベッドの上でまどろんでいた。

床が前より冷たくなったから、2人ともベッドにいるだけ。しまい忘れたタオルケットを取り合いながら、2人で寝転がっているだけ。昨日も一昨日もそうだった。だけど、その日はやけに、その子の熱を感じた。

2人ともブレザーを着たままだから。その子の顔がこっちを向いているから。多分そう、だけど、その子の前髪や息が冷たい鼻先をあたためて、私の体の熱も上がる。

すると、どちらかが「今日、寒いね」と言って、タオルケットを2人の頭の上まですっぽりとかぶせた。頭のてっぺんまで熱に包まれて、のぼせそうになる。なぜか部屋の中よりタオルケットの中のほうが、あたたかく灯っているように感じる。

どちらかが「うん」と言って、相手の太もものあいだに自分の足を差し込んだ。やわらかくて心地いいのに、心臓が痛い。私たちは手を繋ぐのも恥ずかしいのに、下の名前で呼び合うのも照れくさいのに。

私の胸にもある、もう一つの小さなふくらみが気になって、だけど手が動かない。お互いのひざには、ショーツの擦れる感触が微かにあって、だけど指は重なり合わない。

「彼氏とかできたら、こういうことするのかな」「うん、多分」。部屋はいつもより静かで、胸はいつもより騒がしい。ずっとこうしていたいけど、私たちは友達で、その先には進まない。

これはいつか、それぞれが経験することの練習。一緒にいるけど、一緒にしない。トイレみたいに、別々に、その子は来年の夏に、私は再来年の冬に経験すること。照れくさいって、切ないことでもある気がした。

タオルケットの中にこもった熱でむせ返りそうになっていると、その子が突然「暑いね」と言って、タオルケットから飛び出した。私は「うん」と言いながら、1人分余ったタオルケットをかぶり続けた。


卒業間際、2人でよく入り浸っていた保健室の先生に、「付かず離れずで笑い合っているあなたたちの姿は、私にはまるで子猫のじゃれあいのように見えていた。大好きだった」と言われた。私たちはあれからずっと、手も触れていないのに、苗字で呼び合っているのに、あのことは忘れたふりをしているのに。

バレたみたいで、照れくさかった。だから私は、大人になっても、忘れたふりをし続けようと思った。保健室の先生と、私にだけはバレている。それでいいし、それがいい。だからずっと、十数年後の今もずっと、忘れたふりをし続けている。