シャウエンはウンコをしたとき、オシッコをしたときと比べて丁寧に、時間をかけてトイレの砂をかく。私はその音が聞こえると、条件反射でトイレがある台所へと向かい、小さな砂の山をスコップですくう。
今夜もいつも通りだった。「ザッザッ」という音が聞こえると、布団の中で書いていた暗い内容の日記を閉じて、台所へと向かう。シャウエンは排便後のハイテンションで、部屋の隅から隅までを全速力で走り切り、乗ってはいけないところへ乗ったり、倒してはいけないものを倒したりしていた。いつも通りだった。
私はいつも通り、ウンコを入れた袋を捨てると、排便後ハイのシャウエンをキャッチして、観光バスごっこを始める。観光バスごっことは、シャウエンの胴体を肩に乗せて、「右手に見えますのが、冷蔵庫の上でございます」などと案内しながら、部屋を一周することである。
シャウエンはこの観光バスごっこが好きだ。排便後ハイの荒ぶる状態でも、肩に乗ると目を丸くして大人しくなる。私もまた、シャウエンの尻を支えながらふかふかの横腹を頬擦りする観光バスごっこの時間が好きだ。
尻を支えている右手に、ベチャッとした何かを感じたのは、2022年のカレンダーを案内しているときだった。シャウエンを一旦床に下ろして右手を見ると、茶色くて臭い何かが人差し指についている。ウンコだ。
ウンコ……ウンコ。ウンコ、ウンコ……？ 私が「ウ、ウンコー！」と声を上げ、「ちょっと、お尻！」と尻尾をめくり上げると、シャウエンは排便後ハイを取り戻し逃げ出した。尻にはウンコがべったりと付いていた。
まずい、尻にウンコをべったりと付けたシャウエンが、部屋を駆けずり回っている。この場合においての駆けずり回るの「ずり」は、床やソファに尻を擦り付ける意味での「ずり」で、マジで非常にまずい。
シャウエンは長毛種と短毛種の中間で、尻にウンコが付いたり付かなかったりする。近頃はあまり付かなかったから、油断していた。そういえば、ウンコがいつもよりは少しゆるかった。不覚。
排便後ハイのシャウエンを再びキャッチして、「ヤーン！」と赤らめる顔をひっくり返す。観光バスごっこ直後に見たときよりも、尻がきれいだ。床……ソファ……ウンコ……。シャウエンが「ハーア」とため息をついた。
よしとしよう、人差し指がまだ臭い気がするけど。よしとしよう、ソファに茶色いシミができたけど。よしとしよう、暗い内容の日記を書く気分が失せたから。
