最近、というか結構前からあのちゃんの声モノマネを練習している。壁打ちでぶつぶつと、われながらすごく似ているなあと思いながら、「ぼくは、ぼくは」と繰り返している。
どこかで披露するつもりはさらさらない。だけど言っておきたい、結構似ている。同居人にやって見せたら「すげぇ」と言われた。「もっかいやって」と何回も言われた。調子に乗って普段もあのちゃんの声で話したら「もういいよ」とうざがられたけど、まじで似ている。
私は声モノマネが割と好きだ。これならいけるな、と思う声を見つけたら密かに研究する。これまでにSPEEDの島袋寛子、小倉優子とかいろいろと練習したけど、その昔、17歳くらいのときはスザンヌの声モノマネを熱心にしていた。
これも最初は自己満足の世界だった。モノマネ披露の欲求はあるけど、求められていないのにやるのはさむいしスベるし痛いから内緒にしていた。だけどこれもやっぱりすごく似ていた。そしてとうとう我慢ならずにバイト中に披露した。
当時、ティッシュ配りの派遣のバイトをしていた。早朝の駅前に立ち、道行く会社員たちにポケットティッシュを配りながら「おはようございます、コンタクトのアイシティです」と声をかける仕事だった。
この「おはようございます、コンタクトのアイシティです」が、17歳の私にとってはだいぶ恥ずかしかった。支給された蛍光色のジャンパーを着て、作り笑顔でティッシュをさばいていく先輩を見習うことができなかった。
とはいえいやいや笑顔を貼り付け、駅から排出された人々の前にティッシュを差し出していた。しかしこれがなかなか受け取ってもらえなかった。「タダでティッシュくれてやってるのに!?」と腹が立つほど無視された。
朝早くてだるいし、派遣会社の担当の佐藤から「プリ画像送って(ゎら」とか送られてきてキモいけど、やるからにはさばきたい。さばくためには通行人の目に留まらなければならない。
私は試行錯誤した。声のトーンを上げてみたり、ターゲットの前に立ち塞がってみたりして、場外馬券を買いに来たオヤジに「バカボケクソが!!!!」と怒鳴られたりした。そのなかで一番効果的だったのは「特徴的な声」だった。
つまり、スザンヌの声モノマネだった。声を少し鼻にかけ、舌を平べったく伸ばしたスザンヌ調で「おはようございます、コンタクトのアイシティです」と言うと、2人に1人は顔を上げた。そこにティッシュを差し出すと、受け取ってもらえる率がかなり高い。
受け取らずとも振り返る人が多く、たまたま様子を見にきていた佐藤には「かえちゃんやるぢゃん(ゎら」と褒められた。私はモノマネ披露の欲求を満たすこの仕事を天職だと思ったけど、朝起きれなくて5回くらいでバックれた。
過去、こういったやむを得ない事情で、この密かな特技を公に披露したことがある。求められるスキルだと判断し、モノマネをしたのだ。私としては成功体験だ。思い出しただけでニヤけちゃうような。
分かってる。今、あのちゃんのモノマネは求められていない。さむいしスベるし痛いから、披露しちゃいけない。そう、すごい似ているけどやめたほうがいい。だからやらないよ、絶対に。……ん゛っ、んんっ。