こんなもんです

中卒女が今さらなことに驚いたり学んだりする日々をだらだらと記録しています。唐突に気持ち悪い話や思い出話をします。

悲しくない

寝転がっていると天井に悲しいことばかりが浮かび上がるから、同居人に「そればっかり」と言われるワンピースを上からかぶって外に出た。

悲しいことは、そう悲しくはない。ただ、曜日や天気、人や景色が思い通りにならないだけで、悲しくなる。たまに訪れる悲しみの真っ只中にいて、悲しい。

同居人とシャウエンには勘づかれていない。私がエビオスのCMのまねをしたり、大物の鼻くそを見せたりと、ちゃんとしている甲斐あって、ふたりはメシの心配ばかりしている。

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家の鏡では気難しく映る目元が、バスの窓では間抜けに映った。こうしたかった、こう言いたかった、こうありたかった、たくさんの「本当は」を抱えているようには見えない。

線路沿いにはコスモスがぼうぼうと咲いて、道端には銀杏が混乱をきたしている。秋風になびくワンピースの裾からは糸が出ていて、つま先が内を向く。

歩き疲れて、自動販売機で買ったペットボトルのジュースをトートバッグの中にぶちまけた。ふたの締まりがゆるかったみたいで、2、3口しか飲んでいない白ぶどうジュースがバッグから滴った。

ワンピースには大きなシミが、通った道には点々としたシミができている。道の端っこでバッグを傾けると、薄黄緑色の液体がボタボタと大きな音を立てて、通行人の視線を集める。

手はベトついて、恥ずかしくて、正に悲しい。だけど、不思議と足取りが軽くなる。早く家に帰りたい。ぼやけていない悲しみを、ふたりと笑い飛ばしたい。

 

「あ〜あ、バカだねえ」同居人が小暴れするシャウエンを腕から降ろして、風呂の追い焚きボタンを押した。想定内のようで外な反応に、ついヘラヘラしてしまう。

土曜日、からりと晴れた日が暮れた。ふたりはメシの心配をしている。あたたかい湯舟のなかで夜ごはんの献立を考えると、「エビオスエビオス、オスオスオス」と鼻歌が漏れる。多分、悲しいことは、そう悲しくはなかった。