最近は、同居人と一緒にドンキーコングにハマっている。私は下手すぎて何回も死んでしまう。その度に「違う、ボタンが反応しない、マジ押せない」とクソの言い訳をしていたら、昨晩ついに「ドンキーコングのために爪切っとけよ！！！」とバカになっちゃったスポ根みたいにキレられて、それが一番楽しかった。
それと最近は、近所の中華料理店を開拓している。昨晩は「夢芝居と天城越えのイントロがごっちゃになる」という話をしながら、その店名物の何かすごいやつを食べた。食後も同じ話をしながらちょっとぬるい水を飲み干し、軽トラに乗り込んだあとは手回しのハンドルで窓を開けて、「愛想はないけどうまかったね」と話した。そのときに吸ったタバコが一番おいしかった。
最近は、最近も、下品だ。どこに住もうが属そうが、生まれ育ちが下品だから、下品が一番に躍り出る。まあそれは、それでいいかと思ってる。いろいろと面倒くさい年頃だし、仕方ないから諦めている。大人げないと混同しなければ、全然いいと思ってる。
私にとって大人げないとは、みんなから好かれる学校の先生がずっと苦手な人生だ。大人げないは、申し訳ない。最近は、そんなことをずっと考えていて、なのに何度もごっちゃになってしまった。それが一番情けなかった。
休日はよく晴れていた。朝食をしっかり食べて、昼食用のさばの炊き込みごはんをこしらえたあとは、猫と庭を散歩した。
猫は風で枯れ葉が舞うことを初めて知った。通りすがりの幼児はリードでくくられた猫を見て、「わんわん！」と喜んでいた。私は炊飯器がひと仕事を終えるまで、それをじっくり見守っていた。
軒先事情に精通したうちのわんわんは、家に帰ると肩で風を切るように、お尻の穴の筋肉で大ぶりなウンコを切っていた。金木犀の香りでおなかが満たされた私たちは、天日干しした図体をソファに据えて好きに過ごした。
さばの炊き込みごはんは夕食になり、ハムスターは滑車を回して夜行性をアピールしていた。布団はそろそろ毛布が恋しい頼りなさだけど、明日のために広げて包んだ。
頑張って生きてくしかないっすわ。消えてなくなりたい坂46に入りかけたけど、しゃあねえわ！
人と会うのってうれしい楽しい大好きだからね、そういう人生だよ。今に始まったことじゃないし、物心ついたときからそうだから！
保育園のお泊まり会で、夕食のカレーをおかわりする動線でモデルウォークを披露したいがために、カレーをおかわりしまくってみんなの前でゲロ吐いたのもそう。
「わたしながぶちがすきなの！」って周りの大人たちに「セイッ……セイッ……」つって永遠に正拳突きをして、「か、かえでちゃんすごいねぇ」って困らせてたのもそう。
病院に行けば待合室のじいさんばあさんに「しょうらい何になりたいの？」って聞きまくって、お母さんを「うちの子がすみません……」って謝らせてたのもそう。
家に遊びにきたお父さんの友達に「でんきあんまして！」って頼み込んで、「やめなさいよ！」って言われながらおしっこちょいもらししてたのもそう。
全部調子乗りの性格、巻き込み事故の赤っ恥人生！ だけど開き直らない！ しっかり反省して10秒に一度死にたいなって思ってる！ 悔やんで忘れて生きている！
もう千歳飴を袋に詰める仕事がしたいな！
どうして私はバカを晒して生きているのだろう。思い当たる節が、20代前半のころに訪れたアウトレットモールにある。
それまで私は割と頭が良くて、割と物事を知っていると思っていた。
周りの友人たちは地元とEXILEしかわからないけれど、私は地元とEXILEと隣町のメガドンキを知っている。
「1999年って結局地球滅亡したんだっけ？」と問う友人に、「ここ地球だから多分してないっぽくね？」と説いたこともある。
「じゃああのジジイ嘘つきじゃん」と怒る友人をなだめながら、つくづく私は自身の聡明な頭脳に感心していた。
時は流れ20代前半、インターネットで知り合った同年代の女性と仲が深まったころ、2人でアウトレットモールへ遊びに出かけた。彼女もまた地元とEXILEの他にジャグラーに通じていたから、反りが合うと感じていた。
いくつか店を周り、GODIVAのショコリキサーを吸いながら「中学生のころ互いのかかとをライターで炙って何秒耐えられるか競うゲームで私は4秒耐えたことがある」といった歓談を終えたあと、彼女が「あそこも寄りたい」と言って、あるインテリアショップを指差した。
そこには「Francfranc」と書かれたスタイリッシュな看板が掲げられていた。私は「あ、フランクフランクね、いいよ」と言って、ベンチから立ち上がった。
後方から聞こえた「え？」という声に振り向くと、困惑の表情を浮かべた彼女が私の目を見て「フランフランでしょ？」と言った。「えっ」。
私はとっさに「そういう呼び方もあるよね！」と切り返した。Francfrancってフランフランって読むんだ……と、顔を真っ赤にしながらズカズカと歩いた。黙ったままの後ろを振り返れなかった。
以降私はFrancfrancを見聞きするたびにフランクフランクが去来し、「フランフランッッ……！！！！」と赤面する病を患った。ファッションブランドの「INGNI」は「イングニ」だと思っていて、「なんかエッチな名前っ……」とも思っていたからあまり口に出さなかったけど、ある日通行人が「イング」と呼んでいる姿を目にして、「エッチじゃない……！」と感極まった。
私は割と頭が悪くて、割と何も知らないことを知った。知ったかぶりをすると痛い目を見ることも知った。インテリアショップやファッションブランド系の名前には、罠があることも。
だからなるべく、バカを晒して生きていこうと思った。フランクフランクが去来するたびに1999年に地球が滅亡していてほしかったと願うけど、していないから諦めて生きていくしかないと思った。
庭でとっ捕まえたアゲハ蝶の幼虫が脱皮した。着古した4齢幼虫の抜け殻を平らげ、みずみずしい5齢幼虫へと変貌を遂げた。私はとてもえらいと思った。
シャウエンは新たな生活の技術を習得した。アパートの1室から2階建の家屋へ越して約1カ月、気立てのいい猫はすぐに根を下ろし、1階の窓際や階段の縁で堂に入った寝技を披露している。私はとてもかっこいいと思った。
私は5年と23日間、やっぱり何も進歩がないから、鍵盤に手作りの音符シールを貼り、全7ページの音符がない楽譜を5時間かけて作成した。
音符がない楽譜は音符が分からなければ作れない。だから、YouTubeのピアノ演奏動画を0.25倍再生し、何度も一時停止して、鍵盤の位置を確認しながらドレミで書き写した。音程を書き加える必要があるから完成版ではない。
ここまでの作業は簡単だけど大変だった。果たして書き写したドレミが正確か否か、弾けるようになるまでは不明だから、達成感がない。私はとてもかわいそうだと思った。
ピアノを練習するのがつらすぎて、今日は音符を覚えないぞ、弾いてみたい曲のドレミが振ってある楽譜を弾いてみよう、遊んじゃおうと気分転換してみたら、なんでなんでか楽しかった！
初めてだよ、あっという間に1時間が経過したの。いつもは、ひぃあと50分もある……うわぁまだ30分しか経ってない……もうやめたい……あと5分……って、タイマーとにらめっこしながら練習してたのに、今日は気付いたら1時間15分経ってた。新記録だ。
それでいいのかよく分かんないけど、まあいいのかな。だってさ私、何だって基礎がなってないもん。高卒認定の勉強のときがそうだよ。おじいちゃん先生に「基本は教科書ですよ！ 教科書を読みましょう！」と毎度のごとく言われて、「ハイッ！」と元気よく返事だけして、全然読んでなかった。
読んだらウエエエってなるからさ、ゲームみたいなアプリとかYouTubeの動画を見てやってたよ。「読んでます！ やっぱり教科書ですよね！ ハイッ！」って嘘ついてたよ。それだとやっぱり基礎がなってないから途中つらかったけど、まあよく頑張った。
何でも説明書とか読まないで使うのもそうだね。大体こんな感じかな、エヘヘ分かんないけど使えてるからいっかーってノリで覚えてく。だからそうか、私は人に物を教えられないのか。
「なんかここ押したら動いたよー」って言ったって、相手は「はぁ？」だもんね。人と上手に会話ができないのもそれかな、悲しいな、直そう。うう、気も取り直そう。
まあそのうちね。だって、お菓子作りと水泳では基礎を取り入れて、その重みを思い知らされたのだから。きっとピアノだっていつか知ることになるね。いいよいいよ今は。何だって全部、夜更かしをした明け方に思いついて始めたことなんだから。
いろんなことを教えてもらうのは大好き。たくさん知ること、覚えていくことも大好き。だけど楽しくね。ダメダメばっかりで、しゅんとしないでね。
