こんなもんです

中卒女が今さらなことに驚いたり学んだりする日々をだらだらと記録しています。唐突に気持ち悪い話や思い出話をします。

雰囲気とバンド

雰囲気は大事だ。それさえ良ければ、心安らぐ時間が流れたり、ロマンティックな空間を演出できたりするのだから。

昨日購入したリビング用の照明も、わが家の雰囲気を一変させた。

これまで使っていた昼光色のシーリングライトは、面白味のない丸い形で、頭痛を引き起こしそうな青白い光を放っていた。

しかし、この度購入した照明は、シャンデリアを彷彿させるきらびやかなデザインで、リモコン一つで昼光色と電球色に調色できる優れもの。

この電球色といわれるオレンジ色のあたたかい光は雰囲気良く、夜、この光に包まれると、むだにジャズを聴きながらむだに本を読んで、むだにウイスキーを飲みたくなる。

例によって私はその晩、同居人が寝静まるのを確認すると、リビングの照明を電球色に切り替え、ジャズを流し、ウイスキーと本をセットした。

その姿を俯瞰すると、我ながらオシャレで身悶える。私は「雰囲気は大事」と深く感心した。そして、この雰囲気を陰ながら支える「イビキ防止バンド」の存在に、拍手を送らずにはいられなかった。


長らく私は、怒れる大地のうねりのような同居人のイビキに悩まされていた。毎晩、そのイビキを轟かす同居人を「黙れこの!うるさい!バカ!」とけっとばし、世界に一瞬の静寂をもたらす神の気分を味わうことで、ストレスを解消するほどに。

そんな悲惨な状況の中、Amazonで照明を探していた私は、たまたま「イビキ防止バンド」なるものを見つける。

イビキ防止バンドとは、伸縮性のあるバンドでアゴと後頭部を一周ガッチリ固定し、口呼吸を抑制するというもの。ようは力技でイビキと無呼吸症候群を防止するらしい。

すっかりやさぐれていた私は、その豪快さに「気休めにしかならないね」と鼻で笑ったが、うさんくさいほどの高評価の嵐と1200円程度という気軽な値段に胸を打たれ、希望を託した。

同居人は、照明とともに届いたイビキ防止バンドの野蛮な出で立ちに「拷問のようだ」と文句を垂れ、試しに巻いた姿を鏡で見た時には呆然としていた。

 

そうして同居人の協力を得た私は、あたたかい光とジャズのもと、本とウイスキーを掲げ、ニヒルな笑みを浮かべることに成功した。

しかし時々、寝室から聞こえてくるのだ。「ポゴッ」という音が。

その正体は、バンドに押さえつけられたアゴを、必死にこじ開け出したと思われる同居人のイビキ。軽減されてはいるものの、「ポゴッ…ポゴッ」というイビキが、ピアノと管楽器が奏でるジャズに合いの手を入れる。

私はそのご機嫌なイビキが聞こえる度に思い浮かべてしまう。バンドの強い力で頰肉を押し上げられ、100連勤明けの田中みな実のようになってしまった同居人のアヒル口を。必死の形相に似合わないアヒル口から、「ポゴッ」という怪奇音を出すイビキ防止バンド妖怪を。

真面目に取り組む同居人には申し訳ないが、笑いがこみ上げてきてしまって仕方ない。

ジャズを奏でるバンドより、イビキを奏でるバンドが気になり、読書どころではなくなってしまった私は、「雰囲気は大事」と深く感心し、うなだれた。

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