バカな私は、ことあるごとにバカなことをして、父によく説教をされていた。
その説教というのが非常に長い上に、聞く姿勢が悪いと「ナメてるのか」とさらに怒られるものだったから、体では反省の形を取りながら、頭ではまともに聞かないようにしていた。
バカなことをして怒られている人間が「まともに聞かないようにしていた」とは、あまり褒められたものではないが、親の小言と冷酒は後で効くと言うし、そうでもしないと現場を乗り切ることができないと思って、そうしていたのだ。
では、まともに聞かずに何をしていたかというと、「ビートたけしがこの説教を見ていたら」という妄想をよくしていた。父が大ファンのビートたけしが、何かの番組の企画でなぜかわが家の様子をモニタリングしていて、変な格好で「娘さんをボクにください」と首を曲げながらリビングに入ってくれば、説教が早く終わるのになあ……と。
突然、大好きな人に会えた喜びと、親の威厳を保つことを強いられた状況でパニクった父は、ビートたけしと熱い教育論を交わそうとするだろう。すると、徐々に真剣なムードになり、ビートたけしが「あんちゃん、親子ってのは」と味わい深い格言を放ちそうだ。
その言葉に私たち親子は涙を流し、固唾を飲んで見守っていたお茶の間は感動に包まれるだろう。そして、これを機に改心した父は今後の説教を短縮する。
しかし放送後、涙を流す私のキャプチャが「かわいい」と2ちゃんねるを中心に出回り、前略プロフが特定され……と、急展開を見せるあたりで父の「ナメてるのか」の怒号が飛び、我に返っていた。もちろん、説教は度々延長されていた。