こんなもんです

中卒女が今さらなことに驚いたり学んだりする日々をだらだらと記録しています。唐突に気持ち悪い話や思い出話をします。

蒲田行進曲

恥ずかしいから今まで言わなかったんだけど、うちのお父さんって憑依型なんだよね。

憑依型といってもスピリチュアルのそれではなくて、常に映画やアニメの主人公を憑依させている系の、そういうかっこつけの。

ジャンルは大体、ヤンキー漫画のバカで熱い主人公か、愛と国のために生きて死ぬ主人公か、池井戸潤作品系の主人公なんだけど、喋り方から所作までそれになっちゃうの。全部芝居がかってて、もうほんと引いちゃうの。

「おれぁは難しいことは分かんねーけどよぉ、要するに全員ブッ飛ばしゃあいいんだろ?」みたいなことを急に言ったり、「愛する者を守るためならこの身を捨ててもいい」みたいなことを言って突然号泣してみたり、全然分かんないくせに法律のことを語って人を論破しようとしたりするんだよ。やでしょ。

その時々、感銘を受けた作品に人格を左右されちゃうんだろうね。これだけ聞くと、へーお父さんウケるじゃん、かわいいじゃんって思うかもしれないけど全然。自分が描いたシナリオ通りにいかないとムキーってなって手が出ちゃうからウケねぇの。かわいげなんかありゃしない。

自分が憧れる対象に少しでも近づきたくて真似てみるのは全然いいと思うんだ。周りを観客に見立てて一人で演じている分にはね。でもさ、お父さんの場合は心が不安定だから、私たちを舞台に立たせるの。全員を共演者にして、そこで自分を確かめようとするの。物語は結末を迎えなくちゃいけないから、事象は全て大げさに、そして深刻になるの。

それってさ、すごく怖いし迷惑だよ。こっちは脚本知らないからね。少しでも間違えたら手が飛んでくるし、バッドエンドになるんだよ。「お前を殺して俺も死ぬ」主人公になったら最悪よ、やべーよ。そういう作品に影響を受けてるときは包丁とか向けられるんだから、物騒にもほどがあるよ。

ちなみに何も憑依させていないときはマジ無口、全てに無関心。昨日と今日で言ってることが全然違うし、本人はもうどうでもよくなってるから、こちとらエ〜ッ!?ってなる。昨夜の3時間に及ぶ公演は何だったんだ……知らぬ間の千秋楽だったのか……って。酔いどれの父と過ごした12〜18歳までの6年間、そうやって何度も腰を抜かした。

父は憑依型なのだと子どものときに理解していれば少しは楽だったのかなとたまに思うけど、無理だよね。大人になっても無理だもん。最近ばあさんのことでちょこちょこ連絡を取っててさ、その電話が毎回ボイスドラマで私はつらいのよ。

今は『地元最高』っていう漫画を読んでるらしいから、それの主人公を憑依してると思うんだけど、なんかすごい陰鬱よ。私は読んでないから分かんないんだけど、「この狭い世界でがむしゃらに、無知でも夢を見て生きてきた……だけど俺……今、人生の全てを否定された……ううぐ……」って言ってたからそういう作品なんだろうなって思ってる。

というかそういうセリフが何の脈略もなく飛び出すから「マジで何が?」って思う。「ばあさんのデイサービスの話どこ行った?」ってなる。でも私は、そんな主人公を励ます的な、おちゃらけながらもたまに良いことを言って笑わす的な脇役に徹してる。そうすると喜ぶからこらえてる。ヒィ〜。

そうだから、お父さんが好きそうな作品とか、もろに影響を受けた作品はあまり見れないの。「あっ、お父さんだ……」ってなるから純粋に楽しめないというか、おええってなる。なりたくてもなれないだろうなって思うやつは大丈夫だけどね、たけしの映画とか。まあそんなのどうでもいいか。

私の座右の銘は反面教師だからさ、少しでも自分の仕草にお父さんの片鱗を感じたら頭をぶっ叩いてでも我を取り戻そうとするけど、きっと少なからず血は引いてるだろうよ。だから言うのが恥ずかしかった。「言われてみれば、そのけがあるな」って思われたらやだもん。ほんとやだよ。だからせめて、私は子どもを作らないようにしようって今は思ってるよ。かわいそうだもんね。

私はそうだね、ギャグ漫画の、ホームコメディドラマの、園芸番組の、同時上映系の短編アニメ映画の、その端っこの出演者を憑依させる程度にとどめたい人生だ。そしてこれを言ったら少し楽になったけど、どうか引かずにお父さんやべーなって笑ってほしい。完。

f:id:am161024:20231129115737j:image