前から気になっている近所の食堂は、いつも閑散としている、気がする。
いつも閑散としている、気がする理由はよくわからない。ただ何となく、冷めた鯖の味噌煮が出てきそうな雰囲気がある。
2、3カ月に一度は存在を思い出しては、「行かずじまいで潰れてしまうのだろう」と適当に憂いている。
そんな2、3カ月に一度のある日、私と同居人は食堂の白い暖簾をくぐった。2021年8月22日の昼下がりだった。
空腹だけど食べたいものがよくわからず、家のカップラーメンよりはましなものを食べたいシチュエーションに、食堂は打って付けの存在だった。
私はなぜ、いつも閑散としている、気がしていたのだろう。白い暖簾の先は、家族連れや一人客、昼光色とテレビから流れる「こどものど自慢」の音でにぎわっていた。
私はなぜ、冷めた鯖の味噌煮が出てきそうな雰囲気があると思っていたのだろう。注文を取りに来た少し耳の遠い食堂のおばちゃんに、何度も「鯖の味噌煮」と言った。
私はなぜ、「行かずじまいで潰れてしまうのだろう」と適当に憂いていていたのだろう。寝巻きに近いような格好の若いカップルが、だし巻き卵を明太子入りかチーズ入りかで迷っていた。
地元の暴走族のロゴが大きく入ったTシャツを、いい歳をしてまだ着ているようなおじさんが、食堂のおばちゃんにお茶を差し入れていた。この食堂は常連に愛されている。
居心地が良かった。あたたかい鯖の味噌煮がおいしかった。写真を撮ることも忘れて、米をかっこんだ。私はまた、この店に来る、気がする。