こんなもんです

中卒女が今さらなことに驚いたり学んだりする日々をだらだらと記録しています。唐突に気持ち悪い話や思い出話をします。

空目

コンビニに行く途中、大きな黒いゴミ袋を毛艶のいい黒いラブラドール・レトリバーと空目した。

今どき大きな黒いゴミ袋なんてあまり見ないから、一目で大きな黒いゴミ袋とわからなかった。野放しにされている毛艶のいい黒いラブラドールこそあまり見ないどころか、一度も見たことがないけれど。

昔からよく空目する。実家に住んでいたときは特にひどくて、大中小のゴミ袋を猫とよく空目して話しかけていた。

「実家の周辺=野良猫が多い」という固定観念だろうか。実際、実家の周辺は昔、野良猫が多くて、知り合いの野良猫が今思い出せるだけでも5〜6匹はいた。

知り合いの猫には会うと必ず話しかけていた。三毛のお母さん猫には「よっ」と一言、白黒のボス猫には「またケンカして! メッ!」というふうに。

ゴミ袋を猫とよく空目するようになったのは、中学校を卒業してからだった。夜中に携帯電話とにらめっこするようになってから、一気に視力が落ちてしまったのだ。

私はたびたび、コンビニの弁当が入ったゴミ袋を、じいちゃんが餌をやっている猫・ノウラと空目して「あれ、さっきまで家にいたよなぁ?」と話しかけていた。

生理用品を買ったときに入れてもらうような暗い色のゴミ袋は、近所ではあまり見ない黒猫と空目して「お、初めて見る顔だね!」とあいさつをした。

近所の人々はどう思っていたのだろう。ひざにすり傷をつけて元気に走り回っていた子が、成長してギャルになった途端、ゴミ袋に話しかけるようになったことを。

一度や二度ではない、買い物帰りや登下校中、家の窓や運転席から、何度もその姿を目撃しただろう。ゴミ袋に熱心に話しかける私を見て、思いを巡らせただろう。

近所のじじいは「2丁目の角の家の娘は危ねえ薬にでも手を出しちまったんじゃねぇか」と夕飯時に話したかもしれない。奥さんが「そういえば目の下のクマがひどいわね、あの子……」なんて言うもんだから、夫婦のあいだでは合点がいってしまったかもしれない。

そんな近所の人々の不安や疑念を取り払うべく、ゴミ袋と気付いたときにはなるべく、見ていた近所の人の顔を見て「……ネ!」という顔をするようにしていた。

びっくりしたネ! こういうことってよくあるよネ! ネ、あるよネ! の「……ネ!」の顔である。果たしてこの顔が近所の人々の不安や疑念を取り払えたかどうかはわからない。

今日空目した大きな黒いゴミ袋には幸い話しかけなかった。過去の過ちから、はっきりと犬や猫とわかるまでは話しかけないようにしているのだ。

しかし、ゴミ袋とわかったときに、癖でつい「……ネ!」の顔をしてしまった。実家の周辺以外の場所でも、近所の人に不安や疑念を抱かせる人物になってしまったかもしれない。

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