こんなもんです

中卒女が今さらなことに驚いたり学んだりする日々をだらだらと記録しています。唐突に気持ち悪い話や思い出話をします。

25番テーブル

夜、回転寿司屋に行った。端っこの、寿司が入場するゲートに面した、24番テーブルに通された。

選り好みの激しい同居人は、2、3皿を食べるとすぐに食べたいものがなくなる。選り好みしない私は、黙々と皿を重ねる。

「あ、これおいしいよ」
「次、何する?」

これといった会話はない。

「醤油取って」
「はい」

十何年、毎日一緒にいるから、目の前のことしか話さない。

25番テーブルには、家族と思しき4人組がいた。同居人の背中越しに、小学生くらいのでこぼこな頭が二つと、長髪をクリップでゆるくとめた頭、短髪をワックスで固めた頭が見える。

「子どものくせにアジの味がわかるの?」
「あ、ダジャレみたいになっちゃった!」

私の座り位置からよく見える、短髪をワックスで固めた頭の声。スーツ姿で、顔がテカり、いかにも月曜日の仕事終わりといった感じ。

「学校でプログラミングとかやるの?」
鬼滅の刃で誰が好き?」

私が寿司を咀嚼しているとき、同居人がタッチパネルを操作するあいだ、テカった顔の張り切った声がよく聞こえる。

「へー、ゼンイツ?」
「パパはね、タンジロー!」

長髪をクリップでゆるくとめた頭は、左に少し傾いたままあまり動かない。でこぼこな二つの頭は、あっちを向いたり、こっちを向いたりしている。沈黙はないけど、盛り上がってはいない。

「マグロ食べる?」
「あぁ、うん」

聞き耳を立てている24番テーブルの私と同居人は、おそらく共通のあらぬことを想像している。非常に性格の悪い沈黙のなか、それぞれが目と目で25番テーブルの関係性に見解を示し、寿司を頬張る。

傾いたサラダ軍艦の、5度目の入場を見届けたころ、25番テーブルの会話は尽きていた。腹が満たされた24番テーブルは、回る寿司と人ん家の事情にそろそろ飽きて、帰る支度を始めている。

──そのときだった。25番テーブルのタッチパネルから、小さなファンファーレが鳴り響いた。

この回転寿司屋では5皿につき一回、ゲームが発生し、当たりが出るとレーン上の機械が景品入りのカプセルを吐き出す。今は鬼滅の刃キャンペーン中、景品は鬼滅の刃キャラクターの缶バッジ。 25番テーブルに、ようやく当たりが出た。

「うおお、やったぁ!!!」

タンジロー好きなパパがファンファーレとともに勢いよく立ち上がった。シャツの袖をまくり、吐き出されたカプセルに手を伸ばす。

「ゼンイツ……来い……!」

カプセルをひねる手を、固唾を飲んで見守る24番テーブル。私と同居人の手にも、心なしか力が入る。

「こ、これはっ……!」

同居人の背中越しに見える3つの頭が、初めてパパのほうを向いた。

「…………イノシシか〜、チクショウ!!!」

店内の客、全員がズッコケた。……気がする。サラダ軍艦は6度目の入場のとき、皿に倒れていた。

私と同居人は静まり返った25番テーブルの幸運を祈りつつ、24番テーブルをあとにした。